大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(行ケ)103号 判決 1993年10月27日

東京都北区王子1丁目6番11-203号

原告

有限会社加茂電機研究所

代表者代表取締役

渡邉雄紀

訴訟代理人弁理士

田中貞夫

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

1  原告は、「特許庁が同庁平成3年審判第22022号事件について、平成5年4月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

2  一件記録によると、本件手続の経緯は、次のとおりであると認められる。

原告、訴外六桜商事株式会社及び同清水勲は、昭和60年4月17日、名称を「刷版用タテ型トンボ自動描画及びバッファ孔パンチ装置」とする考案につき、共同して実用新案登録出願をした(昭60年実願第56195号)が、平成3年10月16日に拒絶査定を受けたので、同年11月13日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第22022号事件として審理した上、平成5年4月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月26日、原告らに送達された。

原告は、同審決に対する法定の訴え提起期間の最終日である同年7月26日、単独で本件審決取消訴訟を提起し、同年8月23日、上記訴外六桜商事株式会社及び同清水勲がそれぞれ、本願考案につき実用新案登録を受ける権利の各共有持分を同年7月23日に原告に譲り渡した旨の各譲渡証書の写しを提出した。原告は、同年10月1日、特許庁長官に対し、上記実用新案登録を受ける権利の各共有持分を原告が譲り受けた旨を届け出るとともに、同月13日、当庁に対し、訴外六桜商事株式会社及び同清水勲を原告に追加した訴状補正書を提出した。

3  当裁判所の判断

上記事実によれば、本件実用新案登録出願は原告を含む上記3名の共同出願に係るものであるが、上記審決に対しては、法定の訴え提起期間内に、共同訴訟人のうち原告を除く訴外六桜商事株式会社及び同清水勲は訴えを提起せず、原告のみが右訴外会社らから本件実用新案登録を受ける権利の各共有持分を譲り受けたものとして、本件訴えを提起したものであること、原告は、本件訴え提起当時及び訴え提起期間内には、上記各共有持分を譲り受けたことを特許庁長官に対して届け出ず、その届出をしたのは訴え提起期間経過後である平成5年10月1日であること及び原告の上記各共有持分の承継は一般承継によるものでないことが認められる。

ところで、実用新案登録法9条2項、特許法34条4項によれば、実用新案登録出願後における実用新案登録を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じないから、原告の提起した本件訴えは、審決の名宛人となっている共同出願人3名のうちの1名にすぎない原告が提起した不適法なものであって、その欠缺は、原告が取消の訴え提起期間後他の2名の者から実用新案登録を受ける権利の各共有持分を譲り受けた旨を特許庁長官に届け出たことによって補正されることはないと解すべきである。

また、実用新案登録を受ける権利を共有する共同出願人が提起する審決取消訴訟は、共有者の全員について合一にのみ確定すべき性質のものと解されるから、共有者の全員が共同して提起すべきものであって、共有者の一人が提起した審決取消訴訟において、訴え提起期間経過後に訴状を補正し、これを適法に共有者全員が提訴したこととすることは許されない。

以上のとおりであって、原告の本件訴えは不適法であり、その欠缺は補正することができないものであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例